リニューアル・オープンした東京都写真美術館にて、杉本博司「ロスト・ヒューマン」展を見る。
以前、彼のモノクロ写真を見たとき、そのグレーの色調の美しさに見惚れてしまった。透明度があって、クリアなのだけれど、そこに暖かみが感じられる。その場で立ち止まらざるを得ない作品ばかりだった。
今回は、展示会のタイトルともリンクする〈今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない〉という作品がメインだったのだけど、モノクロ写真好きの自分にとって印象的な体験になったのは、写真作品群である〈廃墟劇場〉と〈仏の海〉だった。
〈廃墟劇場〉は、アメリカ各地の廃墟となった映画館にて、彼が選んだ映画を上映し、その映画1本分の光量を浴びて浮かび上がる劇場を長時間露光で撮影した作品だ。そして、〈仏の海〉は京都の三十三間堂の千手観音を、早朝の自然光のみで撮影した作品。
人工の光と、自然の光。モノクロの写真は光を際立たせるが、二つの作品のもつ光は、人を引き寄せる強い力があるように感じた。
映画1本分の光量は凄まじく強い。自分も映画館が好きだが、映画を観るということは、この光を浴びるということであり、その光量に引きつけられているということなのかもしれない。
千手観音は、朝日を受けて静かにその表情を見せているが、私には観音が背負っている後光の方が強く迫ってくるように感じた。
どちらの光も、その強さに目が離せなくなる。その圧倒的な存在を望む心が人にはあるのだろうと思う一方で、それに反発する自分もいる。それは、どんなに微かで弱々しくても、自分の内に火を灯して、それを守りたいという私の思いだった。