坂本龍一「設置音楽展」

ワタリウム美術館で開催されていた坂本龍一氏の「設置音楽展」に出かけた。自身の最新アルバム「async」を良質な環境で聴いてもらいたいという思いから、5.1ch サラウンドで音源を試聴できるよう企画されたという。

ゴールデンウィークに出かけたこともあって、超満員の会場で聴くことになったけれど、そんなのは些末なことだと思えるくらい、どっぷりと音を堪能できる贅沢な企画だった。 

何の予備知識もないまま、ただそこで鳴っている音を聴く。音の振動、圧、質感、それらの重なりが細胞へと届く。それは、地球が鳴っているような、宇宙が鳴り響いているような音だった。目を閉じると、軌道を進む惑星の姿が浮かんだ。無機的な存在から放たれている音に耳を傾ける。それは私が今、聴きたいと思っていた音だった。

ふと、香川にあるイサム・ノグチ庭園美術館で、イサムの彫刻作品を前に感じたことが思い起こされる。世界には、私がまだ気づいていない音がある。世界は音に満ちている。

メロディーとノイズ、ハーモニーと無調が入り交じる音楽は、聴きづらいものかもしれない。12曲聴くと席を立つ人もいて、こういう音楽はマニアックなのだろうかとも思ってしまう。しかし、普段でも歌詞の意味以上に、言葉のもっている音や響きを味わいたい自分にとっては、何かを訴えようとしている音楽や、次に何が来るか想像できる音楽より、ただ鳴っている音の方が、ずっと興味深いのだ。